ハスモンヨトウの雄成虫を核多角体病ウイルスで汚染し,交尾させた雌成虫を介して次世代幼虫への経卵伝達が起こるか否かを検討した。1) 把握器にS1NPV多角体懸濁液あるいは多角体粉末を付着させた雄成虫,腹部に多角体粉末を付着させた雄成虫を,それぞれ未処理処女雌と交尾させ,次世代幼虫の発病を調査した。いずれの処理を行った雄成虫の次世代幼虫においてもS1NPVの感染が認められ,多角体粉末を把握器に付着させた場合に,最も高い死亡率が得られた。2) 多角体粉末を周囲に散布した合成性フェロモン源に雄成虫を誘引し,交尾行動の過程において,多角体に自己汚染した雄成虫を未処理処女雌と交尾させた。次世代幼虫には,S1NPVの感染が認められ,雄成虫への人為的汚染処理を行わなくとも経卵伝達を誘起することが可能であった。また合成性フェロモン源に誘引され,S1NPV添加蔗糖液を吸汁させて排泄により交尾器およびその周辺を汚染させた場合にも,次世代幼虫にS1NPV感染が認められた。3) 以上のことから,合成性性フェロモンで誘引した雄成虫の交尾行動や摂食行動を利用したウイルス汚染処理による防除手段開発の可能性が示唆された。